出会いという事
もう歯医者を廃業して3年になります。が、現役時代から歯医者と患者と言う枠を越えて付き合ってくださった方がかなりいて下さいます。私が三十代後半で歯医者として最も充実した時を過ごしていた頃に、治療をさせて頂いた方がご夫婦で尋ねてくださったのです。表参道に来たついでによって昔話をして下さったわけです。
当時、懇意にしていた近所の焼肉屋さんで、ある芸能プロダクションの社長を紹介され患者さんとしてのお付き合いが始まり、それが縁で芸能関係者の方を拝見する事になったのです。その一人の女優さんの紹介で見えられた方でした。ある製薬会社で宣伝の方を担当され、コマーシャルを作る関係から人間関係が生まれたようです。
それからもう二十年弱の月日が流れているわけです。その方もその製薬会社の重役になられており、後数年で定年と言う事でした。最初に来院した時は、ご主人はかなりの虫歯がありましたが、奥さんは歯周病だけでした。ただ下の前歯5本ほどがかなりの動揺もあり、重症でした。歯ブラシによる清掃指導をかなりの期間やったのを憶えています。
現在も歯の数はそのままでしたが、動揺は激しい様で歯としての噛むという機能は無いようでしたが、痛みも無く背嚢も無いようでしたので、抜く事も無くそのままにしている様です。他の歯は何も問題が無いと言う事でした、もう少し早く、少なくとも5年早く出会っていたら、全ての歯を健康に保ち得たと思うと私も残念です。
逆にご主人は歯周病の方はそれ程問題が無く虫歯の方がひどいのです(一般的です)。歯髄(一般に神経と言っている物です)を除去し、冠をかぶせてしまった物は問題なく、一部金属で詰めた歯が4本ほど再び虫歯になった様です。それとてもう少し上手に歯ブラシを使い管理をしっかりしてくれたならば、問題は起こらなかったかも知れません。
とは言え、私が廃業するまでは時々健康診断に訪れて頂き、清掃のチェックはしていましたから、ご主人もそこそこの管理はしていてくれたのです。そのチェックが途切れたとたんに、清掃の状態が悪くなり環境が悪化し、虫歯の発生という事になった様です。これが職業を継続すると言う義務に繋がるのかも知れません。
私が廃業した気持を十分に理解して下さるからこそ尋ねて下さったと思いますが、それにしても医療と言うものの難しさを感じずにはいられませんでした。又、人の心の繋がりに感謝せずにもいられませんでした。気ままに書いている文章を読んで頂き、今の心を素直に話させて頂きました。又、新たな交流が生まれそうな気配を感じます。
男は健康や美というものよりも、仕事により精力を傾けるようです。それに引き換え女性は何よりもまして美の追求に心を砕くのでしょう。歯も顔にあり美の重要な要素になっておりますので、時間をかけ心配りが違う様です。それが結果として表れた最も大きな要素のようです。二十年という時間と共に表れる変化なのでしょう。
私の生き方の変化も認めてくださり、若者へのメッセージの文章も評価して頂きました。人生の経験者として誰しもが行ないたい行為ではあるが、なかなか出来ない事でもあると。そしてその行為は「最高の道楽」であると。又、人生の良き先輩を得たようです。