人との出会い(その1)

30才前に3年程歯科医院を開業したことは述べました。その時コストという問題にぶつかり、技術と速度と言うものをあらためて考えさせられました。また高額の治療費という問題で結果的に治療してあげられなかった方も多くおられたのも事実です。医療内容、治療費、時間というものを考えながら家族(子供2たり)を抱え、どのような歯科医師になったら良いのか迷い続けた時期です。

結局、選んだ道は体験をする事でした。けして医療内容は高いとは言えないが、とにかく低コストの診療所に籍を置いたのです、技術的にも精神的にも楽な日々でした。しかしながら1ヶ月もすると何とも言えないストレスが溜まり始めたのです。

たとえ話で申しましょう。人も移動させる交通機関として、飛行機から自動車、自転車、あるいは歩く事まで、色々とあるわけですが、まあワラジを売っているようなものです。ですから何の注意も要りません駄目になったら捨てて新しいのに変えてもらえば良いわけですから。自転車にしても道具として便利に使うためにはそれなりの技術も必要ですし、失敗して転べば骨折する可能性もある訳です。自動車となれば免許が必要ですし、社会的な制約が色々とありもっと危険な訳です。飛行機に関しては何の知識もありませんのでここで申し上げる事はありません。ただ交通機関に関してはその運行を代行してもらい、その便利さだけを取りいれるという事が可能な訳です。

しかしながら口の中はそうはいかないでしょう。全て自分でやらないわけにはいきません。私が30代後半に、ラスベガスのホテルのオーナーという方の治療をした事があります。こちらの言う事には耳を貸さずもっともやりにくい部類の患者でした、思い余った末に健康管理をする人を雇う事をすすめたのですがうまくいきませんでした。やはり24時間他人に管理される事は心理的に無理のようです、たとえ経済的に可能であっても。

迷いながらもストレスの固まりになっている頃、大学の先輩で企業内診療所の院長に声をかけられたのです。ある大手のグループ企業で経営管理する、内科、眼科、歯科のある診療所でした。年間かなりの金額の赤字を出していたのですがグループ全体で補填し、企業関係者およびその家族のみを診療するといった形態をとっていました。

私にとっては生活費を保証され、診療行為も自分の納得のいくまで費用の事は考える事無く、また時間も惜しみなくかけられるという、願っても無い環境を与えられた訳です。

歯科医としての生き方の中で、他の人には変えられない心から感謝している三人の方がいます。その三人のうちの一人です、この時期にこの先輩に声をかけて頂けなければ、私の歯科医としての生き方も異なっていたに違いありません。後の二人については次回に述べる事にします。

 


戻る